海藻の中で一番多くフコイダンが含まれているオキナワモズク。
海藻によってフコイダンの含量に違いがあるのは遺伝子レベルで違いがあると考えられています。
このことがわかったのは、海藻のゲノム(全ての遺伝情報)の研究が進んでいるためです。
でも、海藻のゲノム研究は、生物の中ではまだまだ進んでいないのが現状です。
今回は、海藻のゲノム研究の現状と、今後の可能性についてまとめてみました。
ゲノムが解読された海藻は9種だけ
私たち生き物は細胞の中に遺伝子情報を持っていて、
姿形や体の機能がこの遺伝子によって決められています。
遺伝子情報は生物の種類によってそれぞれ違っていて、
遺伝子を調べることはその生物がどんな機能を持っているのかや、
どのように進化していったのかを調べることができます。
ゲノム(全ての遺伝情報)の研究の歴史は、1995年にインフルエンザ菌のゲノムが解読され、
2001年にはヒトのゲノムが解読されました。
海藻として初めてのゲノム解読は、2010年にシオミドロという海藻で報告されました。
2016年と2019年にはオキナワモズクとモズクのゲノムが報告されました。
(※オキナワモズクとモズクは名前は似ていますが、別の生物です。
オキナワモズクは「フトモズク」、モズクは「イトモズク」とも呼ばれています。)
これまで海藻では、褐藻4種、紅藻3種、緑藻2種の9種のゲノムが報告されています。
しかし、他の生物と比べると海藻のゲノム研究はあまり進んでいないのが現状です。
海藻のゲノム研究が遅れている理由
現在は技術開発が進んでいることから、
ゲノム研究はこれまで長い年月を必要としていたものを短縮することができています。
しかし、遺伝子研究の方法が確立している一方で、海藻のゲノム解読は進んでいません。
ゲノム解読をする方法を大まかに言うと、
生物の細胞からDNAを抽出する→DNAを増やす→機械で検出するという流れで行います。
このDNAを抽出するときに、海藻の場合は多くの異物や他の生物が入ってしまうことがあり、
野外から採取したサンプルを使うときに問題になることが多くなるのです。
このことが原因で、海藻のゲノム研究が遅れていると考えられています。
フコイダン含量が多いのは、遺伝子の並びが効率的だから
これまでの研究でオキナワモズクとモズクは、
褐藻の中で多くのフコイダンを含んでいることがわかっています。
フコイダンの合成に必要な酵素はすでに予測されていて、
その酵素遺伝子がオキナワモズクとモズクのゲノムから発見されました。
フコイダンの合成に必要な酵素のうち、2つの酵素遺伝子が、
褐藻のゲノムでは隣接して並んでいることが明らかになりました。
さらに、オキナワモズクとモズクのゲノムでは、
この2つの遺伝子が1つの遺伝子として融合していることが明らかになっています。
このことから、オキナワモズクとモズクではフコイダンの合成が効率化されて、
フコイダン含量も多くなっている可能性が考えられるのです。
海藻の遺伝子研究のこれから
ゲノム解読の研究によって、
海藻ゲノムの特徴や遺伝子の機能を予測することができるようになりました。
しかし、特定の遺伝子の機能を調べるための研究モデル(例:動物ではマウスなど)になるまでには至っていません。
海藻のゲノム解読は、
安定的に高分子、高純度のゲノムDNAを抽出することが今後の課題になっています。
ゲノム解読の最新の機器は、小型・安価になってきて日々進化しており、
これらの新しい技術を活用することで、ゲノム研究に取り組む研究者が増え、
海藻のゲノム研究が発展することが期待されています。
まとめ
これだけ科学技術が発展しているにもかかわらず、
海藻のゲノムがわかっているのは9種だけと言うことは、まだまだ発展途上なんですね。
ゲノム解読をするときにサンプルに異物が入らないように、自然界からではなく人工的に海藻を培養してそれをサンプルに使っても細菌も一緒に検出されることもあるようです。
目に見えないものを調べるって本当に大変ですね。
オキナワモズクはゲノムが解読されているので、遺伝子を読み解くことで、より詳しい生態や機能などがわかってくると期待したいところです。
では、またの投稿をお楽しみに。
西辻光希, 未開拓な大型海藻ゲノムの現状とこれから, 藻類 Jpn. J. Phycol. (Sorui) 67: 81-87, July 10, 2019