海藻たちの生きる知恵!無性的な繁殖方法が存在する理由

モズクのお話

全国シェア9割以上を占めるオキナワモズク。

オキナワモズクはほとんどが養殖で生産されており、
この養殖技術はオキナワモズクの生態を利用しています。

オキナワモズクが増える方法には、有性生殖と無性生殖の2つがありますが、
なぜ2つも存在しているのでしょうか。

今回は、海藻の無性的な繁殖方法が存在する意味についてまとめてみました。

褐藻類は有性生殖と無性生殖で増えている

オキナワモズクは海藻の褐藻類というグループで、褐藻類には2,100種ほどの種類があります。

褐藻類の繁殖方法には、雌雄の区別がある有性生殖と雌雄の区別のない無性生殖があり、
両方を行う種類もあれば、片方しか行わない種類もあります。

有性生殖は雄と雌の2つの配偶子(n)が接合子して成長します。
接合子(2n)が成長すると胞子体(2n)になりますが、
海藻の種類によって胞子体の形はさまざまで目に見えるものもあれば
肉眼では見ることができないほど小さいものもあります。

雌雄の区別のない無性生殖は、
有性生殖の時の配偶子(n:雄か雌)が接合せずに単独で成長したり(単為発生たんいはっせいといいます)、
親の体から胞子(2n)という細胞が離れてそれがそのまま成長したり、
親の体の一部が分離してそこから新しい個体が成長する(栄養生殖といいます)、
といった方法が主に報告されています。

 

オキナワモズクは有性生殖と無性生殖を使い分けている!?

オキナワモズクは、有性生殖と無性生殖の両方を行います。

私たちがよく見るモズクの姿は生物学的には胞子体(2n)と呼ばれます。
この胞子体(2n)にある2種類の袋からそれぞれ胞子が放出されます。

1つは単子嚢たんしのうという袋。
ここから単相(n)の胞子が放出されて、環境条件が合えば接合して胞子体(2n)に成長します。
このサイクルは有性生殖で、1年のうちに限られた時期にしか行われません。

もう1つは中性複子嚢ちゅうせいふくしのうという袋。
ここからは複相(2n)の胞子が放出されて胞子体(2n)に成長します。
このサイクルは無性生殖で、年中行われています。

オキナワモズクの生活史(「オキナワモズクとフコイダンのお話し」より)


図の右下が有性生殖、左上が無性生殖を表しています。

オキナワモズクでは、有性生殖と無性生殖の両方を行っていますが、
有性生殖は時期が限られているのに対し、無性生殖は年中行われています。

オキナワモズクのような種類では、有性生殖の世代と無性生殖の世代は異なる生理特性を
持っていて、片方の世代では生きることができない季節をもう片方の世代でやり過ごしていることが多いのです。

ちなみに有性生殖では、単相の胞子(n)は温度条件(20℃以下)が整わないと接合しませんが、この接合できなかった胞子(n)はそのまま成長して盤状体ばんじょうたいという円盤状の形になります。
この盤状体から新たに単相の胞子(n)が放出され、それが盤状体ばんじょうたいになる、
というサイクルを繰り返すと推測されています。

 

無性生殖は生物の繁栄に欠かせない存在

単為発生たんいはっせいは、未接合の配偶子(n)が新たな個体に成長する無性生殖の現象で、
褐藻類では広く報告されています。

これまで、交配試験で配偶子の接合率は100%にならず、未接合の配偶子が多く存在し、
それらが単為発生たんいはっせいするということが知られていました。
しかし、自然界では単為発生たんいはっせいから成長した個体は非常に少ないことが調べられています。
(全ての個体を調べるのは難しいですが、遺伝子的に可能な範囲で調べた情報では自然界では稀という結論が報告されています)

他の個体を必要としない単為発生たんいはっせいは、有性生殖の成功度が下がるエリアでも安定して生息できると予想され、分布拡大に有利と考えられています。
単為発生たんいはっせいは自然界での存在は稀ではあるものの、
その生物が生きていく上では欠かせない存在ということなんですね。
ちなみに、日本から海外に移入したと考えらえる集団は、いずれも単為発生たんいはっせいの集団だそうです。

栄養生殖も無性生殖の方法の一つですが、褐藻類ではさまざまな手段が報告されています。
ある種では、魚がその海藻を食べたときにちぎれた藻体の一部が24時間以内に根を発達させて
物質にくっつき、新たな個体に成長することが観察されています。

また、栄養生殖を行う種類は北ヨーロッパのバルト海にも生息しており、
有性生殖の集団が生息できない塩分濃度の場所に生息できるそうです。
有性生殖に合わない環境でも無性生殖によって集団の維持や分布の拡大を可能にしているのです。

まとめ

オキナワモズクに存在する中性複子嚢ちゅうせいふくしのうの役割はまだわからないことが多いですが、
単為発生たんいはっせいや栄養生殖と同じように、
生物が生きていくために重要な意味があるのではないかなと思います。
現在は遺伝子の解析技術が発達してきているので、
今後詳しいことが分かってくると期待されています。

今回参考にした文献には他の海藻のことなども掲載されていましたが、
全てを書くと複雑でわかりにくくなるかと思い、一部を省略して大まかにまとめました。
オキナワモズクをはじめとする海藻たちの生態をざっくり理解いただけたらうれしいです。

無性生殖を行う集団は自然界では少数派ですが、
生物が生きるためには欠かせない存在なんですね。
自然界はうまくできているなと感じました。

では、またの投稿をお楽しみに。  


参考文献

星野ほか, 褐藻類の生活環にみられる無性的経路の適応的意義, Japanese Journal of Ecology, 73, 67-78, 2023

 

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