モズクの生態を利用!モズク養殖技術の移り変わり

モズクのお話

こんにちは。

今年もモズクの季節がやってきましたね。
買い物をしてると「新もの」マークが貼られたモズクを見かけるようになりました。

沖縄県は全国のモズク生産量の9割を占めるほど、モズク産業が盛んです。
モズクは主に養殖で生産していますが、現在のようにモズク産業が成長したのは、
この養殖技術が発達したことが大きな要因です。

今回は、モズク養殖技術の移り変わりについてまとめてみました。  


はじめに(オキナワモズクが生まれてから子孫を残すまでの流れ)

オキナワモズクの養殖技術は、オキナワモズクの生態をうまく利用しています。
まずはこの生態について説明します。

オキナワモズクの生活史(生まれてから子孫を残すまでの流れ)には、
有性の世代と無性の世代が2つ存在しています。
オキナワモズクには、胞子を含む袋が2種類あります。
単子嚢たんしのう中性複子嚢ちゅうせいふくしのうです。

単子嚢たんしのうは、単相(n)の胞子が含まれていて、中性複子嚢ちゅうせいふくしのうは複相(2n)の胞子が含まれています。
単子嚢たんしのうから放出された胞子(n)が盤状態ばんじょうたいとよばれる円盤状の形に発生し、そこから胞子(n)が放出され、また盤状体に発生するサイクルを繰り返します。
このサイクルは有性の世代です。

中性複子嚢ちゅうせいふくしのうから放出された胞子(2n)は、盤状態ばんじょうたいとよばれる円盤状の形に発生したあと、同化糸どうかしというモズクの体を構成する組織が現れ、私たちが普段見るモズクの姿に生長します。
このサイクルは無性の世代です。

単相(n)の胞子は、水温などの条件が合うと接合して複相(2n)の盤状態ばんじょうたいに発生し、有性世代から無性世代に変わります。つまり、単相(n)の胞子から普段見るモズクの姿になるには、環境条件を合わせて接合させる必要があるのです。


図を見た方がイメージしやすいかなと思います。
普段見るモズクの姿は、秋〜春の時期に現れ、夏の間は消失します。
目には見えませんが、夏の間は胞子や盤状体の姿で存在しています。

オキナワモズクの生活史(「オキナワモズクとフコイダンのお話し」より)



文章で出てこなかった言葉があるので、補足します。

遊走子:べん毛を有して運動性のある胞子のこと。
造胞体:世代交代する植物や藻類などで胞子をつくる無性の世代。胞子体ともいう。
配偶体:世代交代する植物や藻類などで配偶子を形成する有性の世代。
接合子:2つの配偶子が接合した細胞。図では2つの胞子(n)が接合した細胞(2n)。

 

 

オキナワモズクの養殖技術の移り変わり

オキナワモズクの養殖は、1970年代に積極的に研究が行われました。

オキナワモズクの胞子は、さまざまな物質にくっつく性質があります。
この性質を利用して、胞子を石や網などにくっつけて、
そこでモズクを発芽・成長させる方法が行われてきました。

モズクが育つ海域には、盤状体(2n)が存在し、胞子を放出し続けていることから、
それをコンクリートブロックなどに付着させる試みが、当初行われました。
しかし、自然石やコンクリートブロックを使った方法は、
物質の表面が微小藻類に覆われるとオキナワモズクの胞子が付着できなくなることがわかり、
この方法は終了しました。

その後、より簡単で便利な物質として、網を利用する方法が行われるようになりました。
胞子を出すモズク(母藻)を海から採取して、陸上タンクに網と一緒に入れて、胞子を網に付ける方法です。

そして、母藻そのものを陸上で育てる方法が行われるようになりました。
海から採取したモズクを、陸上タンクでプラスチック板などに胞子を付着させ、盤状体に成長させます。盤状体から放出される胞子を生長させて母藻とし、本養殖のための網に胞子付けを行う方法です。
この方法は、海からモズクを採取する時期が初夏で、夏の間を盤状体として陸上で育てるため「越夏えっか保存法」と言われています。


陸上タンクで網に胞子付けを行っている様子



偶然発見、モズクにも”苗床”が必要だった

胞子を付けた網を海底に張り出す栽培方法を行っていく中で、
網から胞子が安定して発芽しない問題がありました。

この問題を解決する方法は、偶然発見されました。

当時は海底より少し高い位置で網を張ってモズクを栽培していましたが、
1979年、網が杭からはずれて海底に落ちた部分で胞子の発芽が良いことが観察され、
他の網も海底近くに張り出ししたところ、胞子の発芽率を高めることに成功しました。
これは、モズクの「苗床」と呼ばれる方法です。

陸上タンクで胞子を付けた網を、まずは苗床で小さいモズクを育ててから、
本張りをする場所に網を移動させます。
(モズクをスムーズに生長させる大切な作業ですが、漁師さんにとっては重労働ですね・・。)

苗床は、アマモ類という海藻が良く生えている場所が利用されていますが、
苗床でオキナワモズクが発芽する仕組みはまだわかっていません。


苗床で海底近くに設置された網



母藻採取は陸上タンクからフラスコへ

モズクの養殖技術はその後、
胞子を付着させる物質をプラスチック板からビニールシートに変わりました。
海にベルト状に切ったビニールシートを設置して胞子を付着させ、陸上タンクで生長させたものを母藻として使用する方法です。

揺れが激しく、かつ平滑な面を持つビニールシートの特徴から、オキナワモズクを選択的に生育させることができ、従来の方法よりも省力化することができました。

ビニールシートで母藻を得る方法は、
海の環境に影響を受けやすく、必要な量の母藻を確保できないこともありました。
また、モズクが育つ海域によっては、もともと母藻の発生が少ない海域があり、
そのような地域では他の地域から母藻を購入して網付けを行っていました。

そこで、網付けに使用する母藻などの胞子源を確保する方法として、
1996年以降に「フリー盤状体培養法」が開発されました。
オキナワモズクの体から放出される胞子をフラスコ内で培養・増殖させて、
養殖用の母藻の代わりに使用する方法です。
この方法を利用することで、必要な時期に必要な量の母藻を得ることが可能になりました。


今後の課題は、安定した生産を目指すこと

オキナワモズクの養殖生産は、生産量の増減にともなってその価格も変動しています。
生産量が変動する要因には、冬の日照、水温変動、台風などがあるとされていますが、
台風以外の因果関係については解明されていません。

モズクが育つ海域の水温データ収集が行われたり、
モズクの生育と光の関係に関する研究も行われています。
オキナワモズクは養殖技術が開発されてから生産量が飛躍的に増加しましたが、
これからは増減の幅を少なくして安定的に生産できる技術開発が求められています。


まとめ

海の中で網にモズクがモサモサ生えている様子はよく見ますが、
それに至るまでの養殖方法って、なかなか知る機会ないですよね。
私も改めて復習しました(笑)。

現在普及している養殖技術は、オキナワモズクの生態や性質など、
オキナワモズクのことをよ〜く理解していたからこそ実現できたことだと思います。
こうやって養殖技術の移り変わりを見ていくと、
少しずつ作業が効率的になってきていると感じます。

現在主流になっている網に胞子をつける方法は、今から50年前の1970年代頃から始まりました。
これから50年後はもっと技術が発展していると期待したいです!

では、またの投稿をお楽しみに。



参考文献

諸見里ほか, Eco-Engineering, 17(1), 23-26, 2005
長嶺竹明ほか, オキナワモズクとフコイダンのお話. 沖縄イニシアティブ, 2018 ※一部、図を抜粋
当真武, 沖縄の海藻と海草, Mugen, 2012

 

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