フコイダンはモズクを支える“建築材”だった? 細胞壁から見えてきた新たな役割

フコイダンのお話

フコイダンには、免疫関連作用や抗ウイルス作用など、さまざまな機能性が報告されていますよね。

これらは主に、動物や人間がフコイダンを利用したときに見られる働きです。
一方で、フコイダンがモズクの中でどのような役割を持っているのかについては、まだあまりよくわかっていません。

これまでの研究でも、「海藻の中での役割」に注目したものは多くありませんでした。
そこで今回は、オキナワモズクの細胞壁に存在するフコイダンの役割についてまとめてみました。

 

フコイダンの構造と役割:海藻の中で何をしている?

フコイダンは、褐藻類と呼ばれる海藻(コンブ、ワカメ、モズクなど)の粘質物に多く含まれる多糖の一種です。

一般的なフコイダンの構造は、フコースという糖が一直線に連なったものを軸に、硫酸基やグルクロン酸などが枝のようにくっついた形をしています。



また、フコイダンの構造は一種類だけではなく、海藻の種類によって構造が異なることが知られています。
例えば、オキナワモズク由来のフコイダンはフコースを主成分とする構造を持っていますが、他の褐藻類では糖のつながり方や硫酸基の位置が異なることも報告されています。

フコイダンには、免疫関連作用、抗腫瘍作用、抗ウイルス作用など、さまざまな機能性が報告されています。
また、これらの機能性はフコイダンの構造によって変化することも知られています。
例えば、硫酸基の量や分子量が変化すると、機能性も変わることが報告されています。

これまでフコイダンの研究は、海藻からフコイダンだけを取り出して動物や人間に利用したらどう作用するのかの研究が多く行われてきました。

一方で、海藻の中でフコイダンがどのような役割を持っているのかについては、まだ十分にわかっていません。

そこで、オキナワモズクの細胞壁を分解して、細胞壁中に存在するフコイダンの構造や役割の違いについて調べられました。

補足:フコイダンは海藻表面のぬめり成分として知られており、一般的には細胞壁など細胞の「外側」に多く存在すると考えられています。そのため、今回参照した文献では、オキナワモズクの「細胞壁」に存在するフコイダンを調べています。(細胞質中のフコイダンについては本研究では調べられていません)

 

細胞壁を段階的に分解してフコイダンを抽出

オキナワモズクの細胞壁に含まれているフコイダンを調べるため、細胞壁を段階的に分解しながらフコイダンを抽出しました。
この時、細胞壁の外れやすい部分から順番に分解していきました。

まず、熱水で処理し、水に溶けやすい成分を抽出しました。
ここでは一般的なオキナワモズク由来フコイダンに近い成分が多く確認され、細胞壁の中でも主要な成分であることがわかりました。(細胞壁全体に占める割合:49%)
これらは水分保持やゲル状構造(ゼリーのような弾力)に関わっている可能性があります。

次に、シュウ酸アンモニウムで処理し、イオン的につながっている成分を抽出しました。
ここでは、細胞壁内で比較的ゆるく結合している成分が外れています。
ここでも一般的なオキナワモズク由来フコイダンに近い成分が検出されたほか、アルギン酸も確認されました。

さらに、水酸化カリウムで処理し、より強く結合した成分を抽出しました。
ここでもフコイダンが検出されましたが、一般的なオキナワモズク由来フコイダンとは少し異なる構造を持っていました。
この詳細は次の項目で説明します。

最終的に残った分解されにくい成分にはセルロースが含まれており、細胞壁全体の構造を支える成分の一つと考えられました。

 

建築材のような役割を持つフコイダン

水酸化カリウム処理で得られたフコイダンには、これまでに知られている一般的なオキナワモズク由来フコイダンとは異なる特徴が見られました。

具体的には、①キシロース(糖の一種)の割合が高いこと、②分子量が比較的小さいこと、そして③糖の結合様式が異なることです。

これらはいずれも一般的なオキナワモズク由来フコイダンとの違いを示す特徴ですが、特に重要なのが③の糖の結合様式です。

③糖の結合様式が異なる、について構造模式図を示しました。
構造の違いは重要で、糖のつながり方が変わることで分子全体の形状にも違いが生じると考えられます。
ここで見つけられたフコイダンは、フコースが一直線に結合していることが確認されました。


このような構造を持つことで、分子としてはセルロースに近い配置や相互作用が可能になると考えられ、その結果として細胞壁の構造維持に関与している可能性が示唆されました。

セルロースは陸上植物において、いわば“体を支える骨格”のような役割を担っていますが、オキナワモズクにおいても同様に、細胞壁の構造を支える重要な要素になっていると考えられます。

つまり、オキナワモズクの細胞壁に存在するフコイダンは、単なる粘性成分ではなく、細胞壁を支える構造材料の一部としても機能している可能性があると推察されます。

 

まとめ

オキナワモズクの細胞壁に存在するフコイダンを調べた結果、次のことがわかりました。

  • ・一般的なフコイダンの構造は、フコースという糖が一直線に連なったものを軸に、硫酸基やグルクロン酸などが枝のようにくっついた形をしている。
  • ・熱水で抽出された水に溶けやすい成分には、一般的なフコイダンに近い成分が多く含まれていた。
  • ・一方、水酸化カリウムで抽出された成分には、一般的なフコイダンとは少し異なる構造を持つ成分が確認された。特に重要な点として、糖の結合様式が異なっていた。
  • ・細胞壁にはセルロースも含まれており、細胞壁全体の構造を支える成分の一つと考えられた。
  • ・「糖の結合様式が異なるフコイダン」は、セルロースと相互作用することで、細胞壁の構造維持に関与している可能性が示唆された。
  • ・つまり、オキナワモズクのフコイダンには、細胞壁を支える構造材料の一部としても機能している可能性がある。



フコイダンは機能性に注目されがちですが、オキナワモズクにとっては細胞壁を支える”骨格成分”の役割も持っていたことは意外ですね。
これまであまり聞いたことがない役割で、とても興味深い発見だと思います。

個人的には、構造が違うことでここまで性質が変わるのか、というところが面白いなと感じました。
オキナワモズク由来フコイダンの構造は一般的なものが1,3結合、今回発見されたのが1,4結合でした。
1,3結合と1,4結合は軸になっているフコースがどうつながっているかの違いです。
模式図をパッと見たイメージは、1,3結合のフコイダンはグネグネした感じ、1,4結合のフコイダン(セルロースと似た構造)はピーンとまっすぐな感じですよね。
この違いは、モズクはグネグネと柔らかい、陸上植物はピーンとまっすぐ形を保っている、という海藻・植物の姿形に影響しているそうなんです。

また、記事の前半でも触れたように、フコイダンは構造が変わると機能性も変化することが知られています。
今回見つかった“糖の結合様式が異なるフコイダン”が、どのような機能性を持っているのかも気になるところです。
この点については、今後さらに研究が進められていくようです。

今回の内容が少しでも参考になればうれしいです。


参考文献

小西照子, 褐藻オキナワモズクの細胞壁多糖, Algal Resources, 2023, 16, 61-67.

 

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