こんにちは。
フコイダンといえば健康食品のイメージが強いですが、
最近はオーラルヘルスケア(お口の健康管理)にも応用できないかと研究が進んでいるようです。
今回は、フコイダンのオーラルヘルスケアへの応用についてまとめてみました。
はじめに
海藻に含まれているフコイダンは硫酸化多糖類の一種で、由来海藻によって構造もさまざま。
フコイダンは、抗ウイルス作用、抗炎症作用、抗アレルギー作用などの生理活性が報告されています。
これらの作用を口腔医療に活かすための研究が取り組まれており、
これまで、フコイダン含有クリームやジェルを口腔内の潰瘍や口唇ヘルペスなどに用いて、
改善が見られたという臨床データが得られています。
しかし、作用のメカニズムが不明であることから、その解明が求められているのが現状です。
ここでは、これまでの研究で分かっていることをまとめてみました。
フコイダンは菌の増殖を抑える
口腔内の主な病原微生物として、カンジダ菌(粘膜の痛みや味覚障害などを引き起こす)、
う蝕原因菌(虫歯菌)、歯周病菌があります。
フコイダンがこれらに対する抗菌性(増殖抑制)があるかどうかを調べたところ、
この3種の菌に対して抗菌性があることが示されました。
調べたフコイダンは以下の3種類です。
・ヒバマタ由来フコイダン(純度65%)
・ヒバマタ由来フコイダン(純度95%以上)
・モズク由来低分子化フコイダン(純度85%)
3番目のモズクはオキナワモズク属(Cladosiphon)の仲間で、私たちがよく食べる「オキナワモズク」と同じグループです。
病原微生物に対する抗菌作用は、フコイダンの種類によって違いが見られ、
抗菌作用が大きい順に、ヒバマタ由来フコイダン(純度65%)→モズク由来低分子化フコイダン(純度85%)→ヒバマタ由来フコイダン(純度95%以上) となりました。
また、フコイダンはエンドトキシン(内毒素)を中和する作用も確認されました。
グラム陰性菌という種類の菌は、細胞壁にリポ多糖という物質があり、
それが菌が破壊された時などに血中に入ると体に問題を引き起こすときがあります。
これをエンドトキシン(内毒素)と言われています。
口腔内では、バイオフィルム(微生物の集合体。歯垢もこの一種)からもエンドトキシンが
放出されて血流に侵入し全身症状をもたらすことが考えられているため、
フコイダンが口腔内でエンドトキシンを中和することができるなら、
全身症状の改善にもつながる可能性があります。
フコイダンは虫歯菌の付着を阻害する
抗菌性と同様に口腔内で問題となるのは歯垢の形成です。
歯垢の主成分である不溶性グルカン(多糖類)は、虫歯菌の付着に関与しています。
人工歯の素材や動物の歯に対する虫歯菌の付着阻害活性を調べたところ、
上記3つのフコイダンで付着阻害が示されました。
ヒバマタ由来フコイダンでは、純度が高い方が付着阻害活性が低下する結果となりました。
フコイダンの純度によって違いが出たのは、精製過程で活性に関与する構造が変化した可能性が考えられています。
フコイダンは炎症の原因となる酵素を阻害する(痛みを和らげる)
細胞に刺激が与えられると、細胞の中で酵素(COX)が痛み成分を合成し、
その成分の作用で痛みや炎症が生じるというメカニズムがすでに分かっていて、
COXの働きを抑える成分(非ステロイド性抗炎症薬)を用いることで、
痛みや炎症を抑えることができます。
フコイダンにも、これと同じ作用があるのか調べました。
その結果、ヒバマタ由来フコイダン(純度65%)はCOX-1のみ阻害し、
モズク由来低分子化フコイダン(純度85%)はCOX-1とCOX-2の両方を阻害することが示されました。
COX-1とCOX-2の両方を阻害すると胃腸障害が生じるとの報告がありますが、
フコイダンはヒトにおいても安全性が高く、現時点で胃腸障害の報告はされていません。
詳しいメカニズムを解明する必要はありますが、
フコイダンは新たな非ステロイド性抗炎症薬になるのではと期待されています。
フコイダンはコラーゲン分解酵素を阻害する(歯茎を守る)
コラーゲンはタンパク質の一種で、皮膚に多く存在しています。
歯周組織も主にコラーゲンから成り立っています。
コラーゲンを分解する酵素として、コラゲナーゼがあり、
フコイダンは2種類のコラゲナーゼの活性を阻害することがわかりました。
フコイダンは皮膚の老化予防効果が報告されており、
そのメカニズムとしてコラゲナーゼの活性阻害が考えられています。
解明が必要!なぜフコイダン純度の低い方が活性が高いのか?
これらの研究で実験に用いた3種類のフコイダンには作用の違いがあり、
純度が低いフコイダンが高いものより活性が高いという結果になりました。
通常は純度が上がるにつれて活性も上がるはずです。
理由として考えられることとして、
酸性多糖類の機能の多くは分子内の硫酸基に強く依存しているとされることから、
フコイダンの構造内の硫酸基の存在が関係しているのではという可能性があります。
また、未知の活性化因子があって、フコイダンとの併用による相乗効果で活性が強くなったという可能性もありますが、現時点でそのような活性化因子は見つかっていません。
まとめ
フコイダンはお口の健康にもつながることはあまり聞かないですよね。
もちろん日々の歯磨きなどのケアは必要ですが、
私たちのお口の健康にフコイダンが役立つかもしれないなんてすごいですね!
可能性はあるものの、フコイダンの種類によって効果に違いが出たり、
その効果のメカニズムもまだ十分には解明されていないので、
発展途上の分野なのかなと感じました。
でも、これから研究が進んでいって詳しいことが分かれば、
「フコイダン入り歯磨き粉」「フコイダン入りマウスウォッシュ」とか出てくるんじゃないかなと思いました。
これからもこの研究に注目してみたいと思います。
では、またの投稿をお楽しみに。
岡, 日本歯科大学紀要, 第51巻, 11-19, 2022