来春収穫するモズクたちは、この冬の時期に網と一緒に海に出ます。
海に出たモズクは、春になるまでに大きく生長していくのですが、天候が悪いと生育が悪くなってしまいます。
オキナワモズクの中には、さまざまな「株」があり、厳しい環境でも成長できる特性を持つ株も研究されています。
今回は、オキナワモズクの株の生長条件についてまとめてみました。
目次
オキナワモズクの安定生産における品種選抜の必要性
最近のオキナワモズクの年間生産量は、1万トン〜2万トンの間を推移しています(時々2万トンを超える年があります)。
生産量は、オキナワモズクの生育に適した気候に恵まれると豊作になり、逆に日照不足や台風などによって不作になってしまったり、天候に大きく左右されています。
そのため、オキナワモズクを安定的に生産するための技術開発や、生産効率や品質を上げるための開発が求められています。
同じ海藻であるノリでは、室内培養と養殖漁場での試験が行われて、栽培しやすい品種を探したりと、養殖用として扱いやすい品種の選抜を行う開発が進められています。
オキナワモズクでも同じような試験を行なう必要性が検討されています。
そこで、海から採集したオキナワモズクを使って、その特性を調査した研究が行われました。
ちなみに、
「品種」は栽培のために人為的に選抜されて、特徴が安定している個体群のこと。
「株」は自然界や研究段階で見つかった特定の特徴や性質を持った個体群のことです。
株は、品種ほど遺伝的に安定していない場合に使われることが多いようです。
ここでは、オキナワモズクの「株」という言葉を使います。
文献でも「株」という言葉が使われていることから、オキナワモズクの品種開発はまだ発展途上ということが伺えます。
温度別の変化:水温は20〜25℃が生長しやすい
海から採集したオキナワモズクは、S-20株といわれている種類と、対照株のS-17株を用いました。
それぞれのモズクの長さは、S-20株129cm、S-17株20cmでした。
室内培養下で水温を変えて生長試験を行なって、温度でモズクの生長に影響が出るか調べました。
温度は、20.0℃、22.5℃、25.0℃、27.5℃、30.0℃の5条件に設定しました。
その結果、
S-17株は24日目までに水温20.0℃、22.5℃、25.0℃で9.2〜9.8cm生長したのに対し、27.5℃では2.5cmと小さく、30℃では0.5cmとほとんど生長しませんでした。
S-20株では、水温20℃、22.5℃、25.0℃で11.0〜12.4cm生長したのに対し、27.5℃では4.0cmと小さく、30℃は0.8cmとほとんど生長せず、S-17と同様の傾向を示しました。
このことから、水温は20℃〜25℃が生長しやすいことがわかりました。
光量別の変化:それぞれの株では光量で大きな変化はなかった
また、オキナワモズクの養殖では育苗期(小さいモズクを生長させる期間)にあたる1〜3月は日照不足で生育不良を起こすといわれています。
そこで、1〜3月の水温にあたる20℃の条件下で、光量(光の強さ)を変えて生長試験を行い、光量でモズクの生長に影響が出るか調べました。
光量は、75μmol・m⁻²・s⁻¹、130μmol・m⁻²・s⁻¹、260μmol・m⁻²・s⁻¹の3条件に設定しました。
光量の単位「μmol・m⁻²・s⁻¹」は、植物がどれだけ光を受け取っているかを量る単位です。
その結果、
S-17株は、光量75、130、260μmol・m⁻²・s⁻¹ではそれぞれ7.6、7.4、9.8cm生長しましたが、各光量間に有意差はありませんでした。
S-20株でも、光量75、130、260μmol・m⁻²・s⁻¹でそれぞれ13.2、12.8、11.6cm生長しましたが、各光量間に差はありませんでした。
ちなみに、晴天の光量(約2,000 μmol・m⁻²・s⁻¹)、曇りの日の光量(500~1,000 μmol・m⁻²・s⁻¹)、室内の明かり(50~200 μmol・m⁻²・s⁻¹以下)が目安になる光量の数値です。
今回は、室内培養下での試験のため、「室内の明かり」に合わせた数値で試験を行っています。
株を比較:S-20株のほうが高い温度・低い光量で生長が良い
先ほどは、株ごとで温度や光量での変化を見ていましたが、S-20株とS-17株を比較すると違いがあるのかを調べました。
まず温度について、水温20℃では2株の生長にほとんど差がなかったのに対し、22.5、25.0、27.5℃の高い水温ではS-20株がS-17株より有意に大きくなりました。
また光量については、260μmol・m⁻²・s⁻¹では株間にほとんど差が見られなかったのに対し、75μmol・m⁻²・s⁻¹と130μmol・m⁻²・s⁻¹の低い光量ではS-20株がS-17株より大きい値を示しました。
以上の結果から、2つの株の温度と光量に対する生長の特性は、ほぼ同じ傾向を示しましたが、2つの株を比較するとS-20株はS-17株に比べて高水温条件や低光量条件下で生長が良いことがわかりました。
今後の課題:屋外での生育条件で試験する必要がある
ノリ養殖の品種開発では、室内培養と屋外環境での試験によって株の生長の評価と選抜を行っています。
オキナワモズクについても、今後は室内培養下での調査を行いつつ、屋外の養殖試験による試験を進めていく必要があります。
オキナワモズクの養殖では、冬季の日照不足に対する対策が求められています。
今回、S-20株が低い光量ではS-17株より生長が良いという結果を得られたことから、低光量耐性の種苗としてS-20株を用いて今後さらに研究を進める必要があります。
まとめ
オキナワモズクの2つの株(S-17株とS-20株)を温度別と光量別に試験を行った結果、以下のことがわかりました。
- ・温度別にみると、S-17株およびS-20株は水温20℃〜25℃が生長しやすいことがわかった。
- ・光量別にみると、S-17株およびS-20株はいづれも差が見られなかった。
- ・株別にみると、S-20株はS-17株に比べて高水温条件や低光量条件下で生長が良いことがわかった。
- ・今回は室内での培養試験のため、今後は屋外の養殖試験による試験を進めていく必要がある。
光量の項目で少し触れましたが、屋外と室内では光量が全然違っていて、屋外でも晴れの時と曇りの時でも数値が変わってきます。
そのことを考えると、漁場でのモズク生産の効率化のためには、屋外での試験はとても重要になってきますね。
今回の内容が参考になれば幸いです。
須藤ら, 温度と光量によるオキナワモズク2株の生長特性, 沖縄水海研セ事報 70, 45-47(2009). ※一部図を抜粋
長嶺ら, オキナワモズクとフコイダンのお話し. 沖縄イニシアティブ, 2018