食べ物を買うとき、GI値は気にしますか?
GI値(グリセミック指数)は、食べ物がどれだけ速く血糖値を上げるのかを示す値です。
健康のためにGI値を下げることが大事と言われていますが、フコイダンはそのGI値を下げる効果があるのかを調べた研究があります。
今回は、フコイダンのデンプン分解阻害作用についてまとめてみました。
目次
パンとGI値:フコイダンがもたらす低GIの可能性
主食として広く食べらているパン。
パンには、消化されやすい炭水化物がたくさん含まれており、グリセミック指数(GI)が高い炭水化物を多く含む食品と考えられています。
グリセミック指数(GI)は、食べ物がどれだけ速く血糖値を上げるのかを示す値です。
GI値の低い食事は血管系の病気(脂質異常症、心血管疾患)のリスクが低いとされているため、食品のGI値を下げる方法について、関心が高まっています。
その1つの方法として、機能性成分の配合があります。
さまざまな種類の海藻に含まれている硫酸化多糖類は、デンプン消化酵素(α-アミラーゼやα-グルコシダーゼなど)を阻害することが報告されています。
フコイダンも、硫酸化多糖類の仲間です。
過去の研究で、ワカメ由来フコイダンがデンプン分解酵素を阻害したという報告があることから、
ワカメ由来フコイダンをパンに添加して、GI値を下げる作用があるのか調べられました。
パンを焼いた後のフコイダン残留率:70%〜82%の回収率とその理由
パンを焼く前にフコイダンを添加した場合、焼いた後にどのくらいフコイダンが残るのかを調べました。
その結果、パンを焼いた後のフコイダンの回収率は70.3%〜82.1%でした。
このフコイダンの減少は、酵母の発酵によるものと考えられています。
フコイダンの構造の中にあるガラクトース(単糖の一種)をパン酵母が発酵することが報告されたのに加えて、フコイダンが添加されたパン生地から発生したガスがコントロール生地よりも多かったことから、酵母がフコイダンを基質として利用した可能性があります。
また、フコイダンは高温で分解されやすく、パンの製造は200℃の高温で焼くため、フコイダンが分解された可能性もあります。
フコイダン添加でパンのデンプン消化が遅くなる理由
ワカメ由来フコイダンを、小麦粉重量の0%、1.5%、2.0%、2.5%、2.0%の量で添加して、パンを焼き、それがどのように消化されるかを観察しました。
消化は試験管内で口、胃、腸を通過する様子を再現して調べました。
その結果、フコイダンを添加したパンはデンプンの消化が遅くなることがわかりました。
デンプンが消化(分解)されると、その構成成分である還元糖(グルコース)が離れます(言い方を変えると、還元糖が放出されます)。
フコイダンを添加したパンは、この還元糖(グルコース)の濃度がコントロールよりも低くなったことから、消化されにくくなったと推測できます。
還元糖の濃度の低下は、フコイダンの濃度が高くなるほど強く現れたため、用量依存的であることが確認されました。
海藻由来フコイダンには、デンプン分解酵素を阻害する作用を持っていることが報告されています。
過去の研究から、フコイダンは酵素にくっついて邪魔するのではなく、酵素と基質(デンプン)が結合したものにくっついて分解を邪魔していると考えられています。
この時、フコイダンの構造の中にある硫酸基が、フコイダンによる阻害作用を促進しているのでは、という可能性も指摘されています。
また、酵素の働きを助ける水素イオンをフコイダンが除去している、多糖類であるフコイダンが腸液の粘度を高めて、酵素による分解を遅らせている(酵素の動きを鈍らせているイメージ)というメカニズムも推測されています。
フコイダン添加でパンのGI値が低下:実験結果と一般食品との比較
フコイダンを添加したパンの総有効炭水化物と推定GI値を調べました。
総有効炭水化物は、食べ物の中で体がエネルギーとして使える炭水化物の量を示します。
フコイダンの有無に関わらず、すべてのパンで総有効炭水化物に変化は見られませんでした。
GI値は、食べ物がどれだけ速く血糖値を上げるかを示す値です。
フコイダンを添加したすべてのパンで、pGIパン(白パンを基準にした推定GI値)とpGIグルコース(グルコースを基準にした推定GI値)は、コントロールパンの値よりも有意に低くなりました。
この結果は、フコイダンがパンのデンプンの消化を遅らせるという先ほどの結果を裏付けています。
pGIパン(白パンを基準にした推定GI値)は、フコイダンを添加したパンと添加していないパンを比較するために調べられました。
pGIグルコース(グルコースを基準にした推定GI値)は、一般的に知られている”食品のGI値”にあたる部分で、フコイダン添加パンを他の食品と比較することができます。
2008年に報告された食品の平均GI値では、全粒粉パンで74±2、玄米で68±4であることから、パンにフコイダンを添加すると、全粒粉パンや玄米のGI値よりも低くなることがわかりました。
ただし、このフコイダン添加パンのGI値は試験管内での実験で得られた“推定値”であるため、あくまで参考程度にとどめておいた方が良いかもしれません。
フコイダンの体内吸収:受動輸送では吸収されないが…
食べ物に含まれている成分は、含まれているそのままの量が体内に入るわけではありません。
その成分が胃や腸で消化されるのか、消化されたものが腸で吸収されるのか、を考慮する必要があります。
今回、フコイダンを添加したパンについて試験管内で調べた結果、添加したフコイダンの一部は消化されましたが、腸からの吸収に見立てた小さな穴を通過するフコイダンは、無視できるほど非常に少ないという結果になりました。
この結果だけを見ると、腸からフコイダンは吸収されないという結論になりますが、この実験では「受動輸送」(エネルギーを使わない輸送方法)でのみしか調べていません。
別の研究では、フコイダンの輸送方法には能動輸送(エネルギーを使って特定の物質を移動させること)がCaco-2細胞株(小腸に似たはたらきを持つ培養細胞)を使った研究で報告されています。
つまり、今回参照した文献では受動輸送としてはフコイダンは吸収されないという結果になりますが、別の方法(能動輸送)でフコイダンは吸収される可能性がある、ということです。
まとめ
ワカメ由来フコイダンをパンに添加した結果、以下のことがわかりました。
- ・パンを焼いた後のフコイダン回収率は70.3%〜82.1%。酵母発酵の基質として利用されたり、高温で分解されたりする可能性がある。
- ・フコイダンを添加したパンはデンプンの消化が遅くなる。還元糖(グルコース)の濃度がフコイダン添加によって低下することが確認された。
- ・フコイダンを添加したすべてのパンで、pGIパン(白パンを基準にした推定GI値)とpGIグルコース(グルコースを基準にした推定GI値)が低くなった。
- ・フコイダンは受動輸送では腸から吸収されにくいが、能動輸送で吸収される可能性がある。
消化の分野は深く調べるほど、とても複雑で理解するのが大変でした。
今回の内容が少しでも読者さんの理解の助けになればうれしいです。
Hui Si Audrey Koh et al, Fucoidan Regulates Starch Digestion: In Vitro and Mechanistic Study, Foods 2022, 11, 427. ※一部図を抜粋し日本語に編集
Atkinson, F.S.et al, International tables of glycemic index and glycemic load values: 2008. Diabetes care 2008, 31, 2281–2283.(2008年に報告された食品の平均GI値)