オキナワモズクをはじめとする海藻は、細菌と一緒に生息しています。
細菌は悪いイメージがありますが、海藻と細菌の関係性を見てみると、そうとは言えないみたい。
お互い持ちつ持たれつ、上手に付き合っていました。
今回は、海藻と細菌の関係についてまとめてみました。
(※参考文献では大型藻類として書かれていますが、本サイトはモズクをテーマにしているので、大型藻類の一部である「海藻」という言葉を使用しています。)
ちょっとボリュームがあるので、結論だけ見たい方はまとめをご覧ください。
細菌はなくてはならない存在
私たちの周りにはさまざまな細菌が存在しています。
細菌は病気になったりと悪いイメージがありますが、最近では腸内の善玉菌や皮膚の常在菌のように、人間にとっていい働きをする細菌も存在していることが知られるようになりました。
これは海藻でも同じで、海藻の表面や内部にはさまざまな細菌が生息しています。
この細菌がいないと海藻は成長できなかったり、繁殖できないなどの生育障害を起こすことがあります。
もちろん、病気を引き起こす細菌もありますが、細菌がいないと海藻は生きていくことが難しくなります。
細菌は海藻にとって、なくてはならない存在なのです。
海藻の中に存在する「内生細菌」
海藻と関わる細菌は、組織の中に生息している内生細菌と、組織表面に生息している着生細菌の2パターンに分けられます。
内生細菌の集団は、着生細菌よりも変動が少ないという特徴があります。
例えば、イチイヅタという海藻の内生細菌は、世界中の異なる場所から採取しても個体間で共通した細菌集団を維持していると報告されています。
つまり、環境が変わっても細菌の種類は変わりにくい、ということです。
小さなコブのある海藻は、コブの中に根粒菌が生息している種類もあり、根粒菌は陸上植物の場合と同じように、生育に必要な物質の受け渡しをして共存関係にあります。
内生細菌は、海藻の体の中に入るときに、細胞壁などを溶かして侵入するため、病気に関わる細菌の侵入口を作ってしまう点では、海藻に害を与えています。
しかし、根粒菌などのように栄養源を提供してもらったり、細菌の抗菌作用を利用したりと、海藻にとってプラスの影響も与えています。(細菌の抗菌作用については後ほど触れます)
海藻の表面に存在する「着生細菌」
一方で、着生細菌は変動が大きくなります。
内生細菌と同じように、海藻の種類ごとに特異的な細菌集団を作ると考えられていますが、海藻の種類よりも環境の影響を受ける場合もあるという全く逆の報告もあります。
これまで、着生細菌が海藻の種類や生息している環境など、どれに影響を受けているのかの試験が多く行われてきました。
結果としては、環境に左右されない種特異的な細菌もいるが、生育している環境に影響を受ける場合もある。それだけでなく、同じ個体でも部位によって細菌集団は異なる場合もある。という結論になりました。
着生細菌を決める要因はこれだ、というものはなく、さまざまな要因によって複合的に決定していると考えた方が良さそうです。
また、着生細菌を遺伝子解析した研究では、細菌の種類の類似性は低いけれど、それらが持つ機能を見ると類似性が高くなることが報告されています。
つまり、「どんな細菌がいるのか」よりも「細菌が何をしているのか」に注目することで、海藻と細菌の関係性が見えてくる、ということです。
お互いに必要な物質を与え合っている
海藻と細菌は、お互いにいい影響を与え合ったり、逆に悪い影響を与え合ったりしています。
まず、いい影響について。
細菌の視点から見ると、海藻の表面に酸素や糖が供給されるため、それらの物質を利用しています。
特に酸素が少ない深海では、海藻表面は貴重な酸素の供給場所となっています。
また海藻の細胞壁はフコイダン、アルギン酸などのさまざまな多糖で構成されており、海藻の表面にもその多糖が分泌されています。
そのため、海藻にくっついている細菌は多糖分解などの酵素に関する遺伝子を持っており、このような特徴を持つ細菌が優先的に着生しています。
海藻の視点から見ると、細菌が提供する物質を利用しています。
海藻表面の酸素や多糖を利用する細菌は、他の細菌に資源の利用を邪魔されないように、他の細菌の増殖を抑える抗菌作用を持ちます。
また、細菌は海藻の成長に必要な物質(窒素、リン、ビタミン、植物ホルモン)を供給しています。
さらに、無菌の状態では海藻は正常な姿形にならなかったり、成長できなかったりします。
繁殖にも細菌の存在が必要不可欠です。
海藻が正常に生育するためには細菌が必要で、それは一部の細菌ではなく、さまざまな種類の細菌が関わっていることが考えられています。
見方を変えると敵になる
次に、悪い影響について。
細菌の視点から見ると、海藻は不要な生物が付着しないように阻害成分を出しています。
この成分があると、海藻によって必要ない細菌は付着できません。
海藻に選ばれないと、細菌は海藻にくっつくことができないのです。
海藻の視点から見ると、細菌は病気の原因になるという面があります。
細菌が直接病気を引き起こしている報告はありますが、実際その報告は多くありません。
これは、細菌は日常的に生息しているけれど、海藻の免疫力が下がった場合といった何かのきっかけがあって病気を引き起こしている可能性が考えられています。
海藻と細菌の関係を図で表したものがあります。
青い矢印はいい影響、赤い矢印は悪い影響です。
本文中にない言葉があるので補足します。
遊走子は海藻の繁殖に関わる細胞で、細菌によって適した場所に定着し成長を始めることができます。
酸化バーストは抗菌作用の一種で、海藻が細菌に対して行う防御反応です。
まとめ
海藻と細菌の関係性について、以下のことがわかっています。
- ・海藻と関わる細菌は、組織の中に生息している「内生細菌」と、
組織表面に生息している「着生細菌」の2パターンがある。 - ・内生細菌は、海藻の種類ごとに特異的な細菌集団を作る。
- ・着生細菌は、種、環境、個体の部位など、
さまざまな要因によって複合的に細菌集団が決定される。 - ・海藻と細菌は、お互いにいい影響、悪い影響を与え合っている。
- ・いい影響は、海藻は細菌に酸素や多糖を供給し、
細菌は海藻に生育に必要な物質(窒素、リン、ビタミン、植物ホルモン)を供給している。 - ・悪い影響は、海藻は不要な細菌が付着しないように阻害成分を出し、
細菌は海藻が弱ったときに病気を引き起こす。
海藻と細菌、お互い持ちつ持たれつという関係性になっていますね。
私たち人間も、風邪のウイルスは日常的に存在しているけれど、免疫が下がったときに風邪をひくということがあるので、似ていると思いました。
目に見えないけれど奥深い世界。
私たちも細菌と上手に付き合っていきたいですね。
今回の内容が参考になれば幸いです。
水谷・木村, 大型藻類と細菌の間で起きていること, 藻類Jpn. J. Phycol.(Sorui)71: 13-20, March 10, 2023. ※一部図を抜粋