海藻を分解できるのは日本人だけ?食べ物による腸内菌の変化

ニュース・トピックス

こんにちは。

海藻に含まれる多糖類は、腸内にいる菌によって分解されますが、
この菌はすべての人が持っているわけではありません。

今回は、海藻に含まれる多糖類を分解する菌について
昨年公開された総説論文を見つけましたので、まとめてみました。


はじめに

2010年に発表された論文で、海洋細菌が持っている多糖類分解酵素の遺伝子が、
日本人の腸内細菌に水平伝播されたことが示されました。

被験者は日本人13人と北米人18人でしたが、
日本人5人のみから、この遺伝子を持つ細菌が検出されました。
これは、日本人が加熱されていないノリ類を摂取する習慣があったことが、
この伝播をもたらしたのではと考察されています。

当時、この論文は注目を集め、
「海藻利用菌は日本人の腸にだけ」とマスコミ等で取り上げられました。
しかし、論文で述べられていたのは、ノリやテングサ(紅藻類)に含まれる多糖類のみに限定していました。

一部の報道で少し大げさに取り上げられてしまいましたが、
本当に、「海藻利用菌は日本人の腸にだけ」なのでしょうか。

褐藻類に含まれる多糖類とそれに感受性をもつ腸内常在菌について、
これまでの研究結果も含めてまとめました。

『水平伝播(すいへいでんぱ)』とは:ある個体が、他の個体の子孫ではないのに、その遺伝子を取り込む現象。これに対し親子関係での遺伝子の移動を垂直伝播といいます。



 

海藻の分類と多糖類の種類

日本列島は、黒潮と親潮に影響された多様な海岸をもつことから、
1,400種以上の海藻が生息しています。

海藻の祖先は、光合成を行う細菌類(微細藻類)とされており、
光合成色素のクロロフィルaを持っています。
私たちが普段目にする食用海藻は、大型海藻類と呼ばれ、これもクロロフィルaを持っています。
大型海藻類は他にも光合成色素を持っており、
その違いで大きく3つ(緑藻類、紅藻類、褐藻類)に分けられます。

植物がエネルギーを作り出すために重要な光合成色素が異なるということは、
生成される多糖類も異なります。

陸上植物の祖先である緑藻類には、陸上植物と同じようにセルロースが主に含まれています。
紅藻類では、セルロースの他に寒天のもとになるアガロースやアガロペクチン、
増粘剤として使用されるカラギナンなどの多糖類が含まれています。
褐藻類には、増粘剤に利用されるアルギン酸や、
免疫活性化などで注目されるフコイダンなどの多糖類が含まれています。


食べ物や環境による腸内菌の変化 

ヒトの腸内菌の研究者である光岡らは、新生児から高齢者までの糞便菌叢を調べて、
加齢とともに菌の構成が変わることを示しました。
また、羊水の中では無菌に近い状態であったはずの新生児の糞便は、
授乳・離乳後には成人に近い菌構成になることを示しました。

このことから、食べものや環境、周囲のヒトの腸内菌が
別個体の腸内に入り込めるのではと考えられました。

現在は、遺伝子解析技術が発展したことで、腸内菌叢をより深く調べることが可能です。
その技術により、ヒト成人の腸内には500種以上の細菌類が、
数百兆個も生息しているといわれています。

食べものの変化はわずか数日でも、腸内菌叢の構成を変えることが明らかになっています。


食べ物による腸内の多糖類分解菌の増加

食べものによって腸内の細菌に変化が出るか調べた実験があります。
ラットに多糖類であるラミナランとアルギン酸が含まれた食事を2週間投与し、
多糖類分解菌の変化を調べました。

その結果、
アルギン酸を投与していないラットの腸からはアルギン酸分解菌は検出されませんでしたが、
アルギン酸を投与したラットでは、すべての個体からアルギン酸分解菌が検出されました。

ラミナラン分解菌は、ラミナランを投与していないラットでも検出されましたが、
ラミナランを投与したラットではすべての個体でラミナラン分解菌の菌数が高くなりました。



また、食物繊維を含まない食事と、
アラメ食(アラメは褐藻類の一種. ラミナラン、アルギン酸を多く含む)を
2週間投与したマウスの腸内細菌を調べました。

アラメ食により、腸内を占める割合が高くなった細菌グループが2つあり、
Bacteroides acidifaciens(バクテロイデス アシディファシエンス)と、
Bacteroides intestinalis(バクテロイデス インテスティナリス)の近縁種と推定されました。



この2種はアラメ成分に感受性をもつ腸内常在菌であることから、
アラメに多く含まれる多糖類(ラミナラン、アルギン酸)を利用する菌である可能性が考えられました。

これらの腸内常在菌は、発酵能力があることも示されました。
その働きによって生成される有機物が、腸内の環境改善などをとおして、
ヒトの健康に役立っていると考えられています。


まとめ

いろいろ調べていくと、海藻を食べているから海藻を利用する腸内菌がいる、
ということが明らかになりました。
なので、外国人でも海藻を食べれば海藻を利用する菌が腸内に増えるはずだ、
とこの論文の著者は考えています。

これとは全く別の研究ですが、海藻を食べる習慣があれば海藻に含まれる成分(フコイダン)を
より吸収されやすくなることが示唆されています。
食習慣による体の変化というところで、共通していますね。

発酵食品を食べて腸内環境を整えるという言葉はよく聞きますが、
海藻にも同じことが言えそうですね。

時々忘れそうになりますが、私たちの体は食べるものでできているんだなーと気付かされました。

では、またの投稿をお楽しみに。  


参考文献

海藻中の水溶性多糖類と腸内菌 ー海藻利用菌は日本人の腸にだけ?ー, 久田 孝, Functional Food Research Vol.17 2021 ※一部図を抜粋。

 

関連記事
 

 

イメージテキスト

本場・沖縄県で、オキナワモズクやフコイダンの生産と研究開発に積極的に取り組むサウスプロダクトが、その魅力や特性を科学的にわかりやすくご紹介。
産地ならではのLive感いっぱいで、お届けします。